デザイン経営と知財戦略・知財による地域ブランディングに関する情報を発信するサイトです。
2021.09.21
第1のステップ 自分でとりくむアプローチ

 「もったいぶらずに、早く教えてほしい!」
 わかりました、でもちょっとお待ちください。「根っこ」は、そうやすやすとは見つかるものではないのです。まず「根っこ」には、色も形もにおいもありません。そして、「根っこ」を活かし、ブランドを形成し、差別化を実現するまでの道のりには、一般に定型的な(あるいは典型的な)プロセス(つまり、こうすれば必ずうまくゆくといったたぐいの方程式)をあてはめることは難しいです。個々の対象物によって、その背景にある歴史、特徴、想いなどは実に多様です。このような理由から、対象物からさかのぼって「根っこ」をみつける作業は一筋縄ではいかないのです。
 じわじわと根っこに近づいてゆく、頭の中でイメージを膨らませてみてください。「根っこ」へのアプローチは大きく2つにわけることができます。第1のステップでは、自分でとりくむアプローチをご紹介したいと思います。

1.対象物が会社、商品の場合
 例えば、次のような資料をあたることでアプローチを試みることができます。

・ 古い社内報(社内向けの資料は、情報の宝庫です)
・ 社史や創業者の自伝(ストーリーとして出来上がっていますので把握しやすいです)
・ 組織図、製品マップ、製品開発の歴史
・ 対象商品に関する資料(例:規格書、取り扱い説明書、営業シナリオ、競合品との比較など)
・ 過去の取材資料、新聞記事、雑誌記事(第三者の視点で会社が紹介されています)
・ 社員旅行、仕事風景などの古い写真(当時の想いが閉じ込められています)
・ 特許、商標、意匠などの出願実績(無料のデータベースJ-PlatPatを使えば、開発の方向性、ネーミングの歴史を、簡単に振り返ることができます)
・ パンフレット、商品パッケージ(当時のトレンドや、打ち出したかったポイント、ターゲットが見えてきます)
・ 取引先情報(取引先の変遷を見ることにより、事業規模・内容の変化をみることができます)

 実際に対象物を見たうえで、そこから「根っこ」にさかのぼるまでの要素に数多くふれる作業を行います。それらの要素が共通に奏でる音楽(あるいは共通に醸し出すにおい)を「感じる」ことができたら、アプローチは成功しています。ひとつの情報でも角度を変えて眺めると、気付くこともあります。ここで感じた「共通に奏でる音楽、におい」を、有機的に再構築して、続くデザインワークで形にしてゆきます(第3のステップ以降でお話します)。

2.対象物が地域の産品・サービスの場合(地域ブランドと呼ばれているもの)

 基本的な考え方は上記1.と同じです。
 一方、地域ブランドならではの部分もあります。ポイントは、「地域」の名称の戦略的な選択です。この点、原田ら1)は「滋賀」と「近江」の例を挙げています。現在の滋賀県は、近江国とほとんど同様の地域をカバーしていますが、古代から親しまれた「近江」のほうが、多くの歴史的、文化的事象と紐づいており、「滋賀」と「近江」のブランド価値は異なることを説明しています。まとめると「その地域」だからこその価値を最大化するために、歴史や文化によって連想できる名称を、戦略的に考慮する必要があるということなのです。アプローチのための資料の例としては、次のようなものがあります。

・ 各地の風土記
・ 産品等が紹介された新聞記事、雑誌記事  など

3.そのほか重要なこと

 創業者、会社OBの方、関係者など、会社をよく知る生き字引のような方々に、会社の歴史、開発の歴史などを、ヒアリングしておくことも大切です。当時の心情などは、紙の公式資料には残されていないためです。想い、ねらい、達成したこと、できなかったこと、なぜ、なぜ、なぜ、を繰り返して、その当時の心の動きを聞き出してみてください。創業者本人ではなく、そばで支えてきた番頭さんのような立場の方に同じ質問を投げかけると、また違った角度からお話を聞くことができて面白いこともあります。かしこまって聞くよりも、「昔ばなし」を聞かせてほしい、というようなスタンスでいると成功することが多い印象です。脱線するのも大いに結構です。なにげない取引先との雑談から、どんなに探しても自社に残っていなかった約40年前の資料が、その取引先に残っていることが判明したこともあります。この時は、ちょっと感激しました。当時を知る方は、なにも自社だけに限らないのです。
 これらの得られた情報は、「根っこ」へのアプローチの要素となるだけでなく、会社の財産として、まとめておくに越したことがないかけがえのないものです。

 以上で、自分でとりくむアプローチは完成です。
 頭の中だけでかんがえずに、動き回って、ぜひ楽しみながら取り組んでみてください。
 次回は、「第2回 他者の目線を取り入れたアプローチ 」をお届けします。
 どうぞお楽しみに。

参考資料
1) 原田保・三浦俊彦[2011]「地域ブランドのコンテクストデザイン」同文館出版
   地域ブランドとは、「地域のブランドではなく、地域がブランド」であるとの観点から36の地域ブランドを分析し解説された本です。少々専門的ですが、ご興味がある方は、参考にしてみてください。

連載コラム一覧